「全館空調」とは、読んで字のごとく「建物全体の温度を調節する機能を備えたシステム」のこと。その快適性をはじめ、さまざまなメリットが享受できることから、現在注目度の高い住宅設備になっています。その導入にあたっては設備を建物全体に張りめぐらせる必要があるため、建築段階から計画しておかなければなりません。注文住宅で全館空調を検討するにあたり、メリット・デメリットを考えてみましょう。
家族の快適・健康に貢献する全館空調
全館空調は、住居内の天井や壁にダクトを張り巡らせて、家の中のどこにいても室温を同じに保つことができるシステムです。室温の管理をベースに、室内の空気を常に入れ替える換気機能や、湿度を一定に保つ除湿(加湿)機能も備えたものが主流となっています。これまでもホテルやデパート、病院など広い面積がある公共施設では取り入れられてきましたが、これが一般の住宅にも導入され始めた背景には、エネルギーを上手に活用するオール電化のテクノロジーが進歩したこともさることがなら、住まいに快適性や健康を維持するための機能を求める需要が高まったことが考えられます。全館空調の最大のメリットも、やはりそこにあります。リビング、ダイニング、キッチンはもちろん、各居室、廊下、浴室、トイレに至るまで、室内をほぼ一定の温度に保つことが可能になるので、各部屋間の温度差は非常に小さくなります。ということは、暖かいリビングから寒い浴室やトイレに急に移動したことで血圧の変化が起こり、心筋梗塞や脳卒中などの重篤な疾患をもたらす「ヒートショック」の危険性も、これにより下げることができると言われています。また、全館空調の効果を高めるためには住宅の高気密高断熱化が不可欠になるので、家の中に結露が発生しにくくなります。すると結露の水分を養分とするカビやダニの発生も抑えられることから、それを原因とするアレルギー疾患の危険性も減らすことができます。また窓を開けなくても換気ができたり、屋内で洗濯物を干しても乾きやすいので、花粉によるアレルギーに悩む人にも優しい設備と言えます。とにかく玄関を入った瞬間から、家のどこにいても常に快適という状態が保たれているのは、とてもうれしい事ですね。
空間デザインの制限を取り払う効果も
全館空調のメリットは、住む人の健康面だけではありません。まずは住まいの意匠性を保てること。注文住宅により自分好みに室内をデザインしたとしても、エアコンの存在感が気になってしまう人は少なくなかったはず。それが全館空調では目立たない吹き出し口があるだけとなり、室内のデザインを損ねることがありません。もちろん一台一台に必要だった室外機もまとめられるので、屋内のみならず屋外の美観整備にもなります。
また、吹き抜けに憧れていたものの「冬は寒い」というデメリットを気にして諦めていた人でも、全館空調ならば建物全体の温度を同じにするので、気にならなくなるかもしれません。望んでいた室内空間を実現できるのは、大きなメリットといえるでしょう。さらにはエアコンごとに必要なフィルターのお手入れも、全館空調の場合はフィルターの数が一ヶ所か二ヶ所に限定されるのでお掃除も少し楽になるかもしれません。その点でもメリットが感じられるかもしれません。
気になるのは導入コストとランニングコスト
では、その反対のデメリットはどうでしょうか。
一番気になるのは、コストのことでしょう。確かに全館空調は、導入コストもランニングコストも通常のエアコンよりもかかるというのが、実際に導入した多くの人の感想のようです。もちろん機種や家の広さにもよりますが、延床面積35坪程度の家で約150万円〜約200万円というのが相場感。となると、エアコンが必要な部屋すべてに個別に設置するケースと比べて、割高になります。ただし、全館空調の寿命は30年程度といわれ、通常のエアコンの約3倍にもなると言われています。その間買い替えの必要がないことも考慮に入れると、思ったほど導入コストの差はないかもしれません。一方、ランニングコストはどうでしょう。全館空調システムは常時家全体の空調を行うため、各居室単位でシステムを切ったり入れたりすることは基本的にできません。そうなると家に人がいないときでも、人がない場所にも常に空調を利かすことになりますので、電気代のムダは多くなります。(メーカー機種によってはは節電モードがついている全館空調システムもあるそうです。)しかし使い方やライフスタイルによっては、むしろ割安になるケースもあるようです。例えば家族が多く、居室ごとのエアコン稼働の機会も多い家であれば、全館空調の方が安いことも考えられます。また太陽光や地熱などの自然エネルギーを利用したシステムであれば、ランニングコストを抑えられることもあるようです。この点では各メーカーの特徴を比較して、導入を検討するとよいでしょう。
全館空調は、今後も技術の進歩が進み、コストやメンテナンス性能などの改善が見込まれます。住まいの快適性を大幅に高めることができるシステムですから、メリット、デメリットをよく見極めた上で、注文住宅の際の検討材料に含めるとよいかもしれません。